巻頭言
神経循環無力症
池見 酉次郎
1
1九州大学医学部心療内科
pp.155
発行日 1964年3月15日
Published Date 1964/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201296
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今日一般に神経循環無力症(以下NCAと略記)といわれているものには,次のような歴史がある。このような疾患がはじめて注目されたのは米国の南北戦争の最中である。兵士たちに動悸がしたり,息切れがしたり,ひどく不安になつたりするものが多数あらわれ,Da CostaがIrrita—ble heartと名づけている。第1次大戦になつてこれがさらに問題となり,このような症状を出す兵士は,心臓血管系や神経系に弱いところがあるだろうという理由から,NCAという大げさな病名が案出された。
第1次大戦中,何千人もの兵士たちが,とくに心臓には病変はないのに,このNCAのために除隊となり,彼らに支払わなければならない年金も巨額に達したということである。ところが,第2次大戦のときになると,軍医たちの間でも,もはやNCAという病名は用いられなくなつた。それというのは,この場合,とくに心臓や神経が弱つているわけではなく,戦場での不安や恐怖に耐えられなくなつたためにおこる症状であることがわかつたからである。
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