Japanese
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講座
咳の薬理
Pharmacology of Cough
加瀬 佳年
1
Yoshitoshi Kase
1
1熊本大学薬学部薬物学教室
1Dept. of Chemico Pharmacology, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Kumamoto Univ.
pp.425-435
発行日 1963年6月15日
Published Date 1963/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201217
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I.総論
咳(Cough,Husten,Tussis)は気道内の異物を排除するための生体の重要な保護反射である。気道粘膜内の知覚受容器が異物や痰によつて器械的に,あるいは気道の炎症時産生される化学物質,刺激性ガスによつて化学的に刺激されて起る。これらの場合は保護反射として重要であるが,胸膜炎,心嚢炎,腫瘍による気道の圧迫など気道外の原因によるもの,又心因性に起るものは本来の目的から逸脱し,原因疾患に伴う厄介な症状の1つにすぎなくなる。いずれにせよ,咳の出る疾患では病因の治療が先決で,鎮咳薬の使用は飽くまで対症的でなければならない。臨床的には異物や痰のある場合の咳は抑制せず,むしろ去痰薬を用いて痰の喀出を容易にしてやる。痰が出てしまえば勿論咳は止まるが,痰喀出に役立たぬ弱い咳の頻発,またはあまりに劇しい咳は患者を苦しめ消耗さすので,鎮咳薬で軽く抑制し,痰がたまり刺激が増強された時だけ強い効果的な咳が出るようにする。痰の殆どない所謂空咳,特に胸膜炎のように気道外から起る咳は是非止めてやる必要がある。
咳の頻発は生体機能を阻害し,特に呼吸循環系には影響が著しい。激しい咳発作時には胸腔内圧は著しく上昇し,200mmHg以上に達することがあり,このため右心房への血液還流の阻害による症状例えば鼻血,眼瞼浮腫などを来し,更にまた,脳血流減少のため意識障害を来すことがある。
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