連載 職場のエロス・13
咳
西川 勝
1,2
1老人保健施設ニューライフガラシア
2大阪大学大学院臨床哲学博士課程前期2年
pp.76-77
発行日 2003年1月15日
Published Date 2003/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900542
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もう十日以上,咳が止まらない。熱はないが,からだの芯に力が入らない。仕事を休むほどでもなく,大儀な気分を引きずって職場にきた。老人保健施設でのぼくの仕事は,そうバタバタしない。主任でいるから少々横柄な態度でいても,怒られることもない。見えもしないふてくされた自分に「フンッ,最低野郎め」と毒づく。たいして傷つきはしない。
ささくれた雰囲気で周りのスタッフを寄せ付けずに管理日誌や回覧書類に日を通した後,明日の薬を箱に準備していた。誰かが近づく気配に顔をあげると,杖をもったOさんが,いつものとおり眉間にこれでもかという皺を寄せてやってくる。
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