巻頭言
基礎と臨床との緊密化
三神 美和
1
1東京女子医科大学
pp.231
発行日 1961年4月15日
Published Date 1961/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200967
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近年の医学の進歩は,月への旅行が夢物語ではなくなつた宇宙科学の発展とは比ぶべくもないが,確かにめざましいものがある。たとえ未だ癌は征服されず,老化は予防されなくとも,結核死亡は減少し,心臓手術も容易となつた。然しこれらは一朝一夕になし得たものではなく,多くの学者の多数の研究の賜物である。結核の治癒率の上昇はあの有名なWaksmanによるStreptomycinの発見によりその第一歩がもたらされた。心臓手術の今日あるは単に手術手技の進歩というのではなく,医学全体の水準の昂揚によるものである。基礎となる呼吸循環の生理,病態生理,輸液,更に加えて麻酔学の発達があつて初めて輝かしい手術成果をもたらしたものである。このことは手術のみでなく臨床医学全般について言えることであつて,ここに基礎研究の重要さがある。近年の臨床医学の輝かしい進歩の原動力は何といつても臨床に必要な基礎研究の進歩とこれが臨床への応用に外ならない。
我国における基礎医学と臨床医学とのつながりは以前には必ずしも緊密なものではなかつた。然し近年は両者の連けいが強まり,臨床家も基礎的研究に踏み入り,またこれを導入し,基礎医学者も臨床に関連ある研究に向う傾向もあつて,両者の直結される機運となつた。
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