巻頭言
術後急性肺水腫の実験に思う
脇坂 順一
1
1久留米大
pp.787
発行日 1959年9月15日
Published Date 1959/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200809
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私共が術後急性肺水腫の研究を始めてから早6年の歳月が過ぎた。この間の私共の研究内容を回顧するとき,今日迄2つの大きな過程を過ぎて来たように思われる。その1つは,まずいろいろな肺水腫を発生せしめる方法を検討し,それによつて肺水腫が実験的に起し得ることを認知した時期であり,今1つは,現在私共がやつているように,実験的に作製した肺水腫について,種々の病態生理を明らかにし,それらの病態生理から,本症の発生病理を解明し,更に治療法を確立しようとする時期である。而も,この時期こそ実験的研究過程で最も重要な時期であると共に,又最も困難な,而も誤りを犯し易い時期と言えるのである。今,私共がこの段階に来て最も強く感じている事は,極めて当然の事とは言え,1つの実験を正しく判断する為には,主として機能面に重点を置いた生理学と,形態面に重点を置いた解剖学の両者相俟つた発展が如何に大切かと言う裏である。
今日迄の肺水腫に関する内外の業績を一覧して見ると,真に議論百出で至つて多彩を極めているが,その発生論に至つては,更に多くの説が入り乱れ,殆ど意見の統一が見られていない現況である。即ち,あるものはそれを肺毛細血管圧の上昇とか,肺血量の増加とか,心搏出量の低下等の心肺の血行動態の変化に求めようとし,又あるものはそれを肺毛細血管の透過性の亢進に求めようとし,又あるものは更に血漿膠滲圧の低下にそれを求めようとする等、各々の意見を主張して止まない。
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