巻頭言
診療偶感
石田 二郎
1
1慶応義塾大学
pp.461
発行日 1956年6月15日
Published Date 1956/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200377
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最近医学の目覚しい進歩は抗生剤の発見に始まり,有効な薬剤の出現は正に百花繚乱の感じがする。然しながら同時に,ガレーノスの言葉を味わう必要があると思う。即ち「我身に覚えはあるが初学者は,「有益かさなくとも無害」と云うヒポクラテスの言葉を蔑視し勝ちである,時に強烈なる療法を不適当に用いて病人を亡ぼす事がある。実地経験を重ねるに従い,はじめてヒポクラテスの言葉の大切な事を悟るものである」
吾々は理論上は確かに良いと信じてなした療法も不慮の災難を起す事がある。肺臓の手術に際して降圧剤を用い,血圧の上昇を来さないで死亡した例もあり,老人の肺炎にクロロマイセチンを使用し,急に下熱はしたが,脳軟化症を併発して死亡した例を経験している。前者の場合は理屈としては確かに良いのであるが,可なり不自然な姿である。手術に際して降圧剤の使用が減少している事は良い傾向と思われる。後者の場合に於ても肺炎の治療法としてはそれで宜しいが,トロンボーゼを起したがって居る老人の脳血管の態度を無視したと考えられる療法であろう。
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