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医学部卒業を控えた医学生にとって研修病院探し,研修医にとってはその後の進路決定をするまさに正念場といえる今日この頃でしょうか.いえ,正念場を迎えているのは,一人でも多くの研修医や医局員を獲得しようとする病院側,大学側のほうでもありましょうか.もちろん,昔から医師には卒後の進路を決めるというプロセスがありました.実習を通じて,あるいは先輩に勧誘をされるというなかで,自然と適正を見極めて専門領域に分かれていったのだと思います.現行の新臨床研修医制度が開始されて以来,賛否両論を経ながら,この一見奇異にも映る,「選択の自由を経験する医師の世代」が,医療界において着実に多勢を占めてきていることは間違いありません.一見,自由に選べる選択肢が多いことは可能性を最大限に引き出し,満足度を高めることになりそうですが,必ずしもそうではないという事例が多くあります.
行動経済学では,選択のパラドックスという概念があります.人にとって選択肢が多いことは幸福度を高めるどころかかえって低下させてしまうのだそうです.「ほかにも最良の選択があるのではないか?」と心配の種を増やし,自分の下した選択に迷いが生じ,満足度が下がり,ひいては無力感すら引き起こす,という説明がなされます.現在,専門領域に関しても,病院の研修制度についても情報過多であり,ありとあらゆる選択肢が用意され,それを謳歌できるうらやましい世代とも言えます.しかし,意外に選択の結果に充実度が低く,後悔しがちであり,総じて幸福度が低いことが指摘されています.本当にこの病院が,あるいはこの専門領域が自分にとって最良だったのかと問い続け,ひいては転科,転職も少なくはないのだそうです.
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