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はじめに
近年の遺伝子学の進歩によって,心血管疾患に限らない様々な疾患の発症への遺伝子の関与が明らかとなってきている.不整脈症候群は家族内で発症することが多く,また発症すると突然死を来しうることから,古くから遺伝学が発達してきた分野である.QT延長症候群は最も遺伝学的な検討がなされている不整脈症候群であるが,その他にもBrugada症候群や早期再分極症候群,特発性心室細動,カテコラミン感受性多形性心室頻拍,QT短縮症候群,心房細動,洞不全症候群,心臓伝導障害(房室ブロックを含む)といったあらゆる不整脈への遺伝子の関与が解明されている.今までに同定された不整脈症候群の原因遺伝子のほとんどは心筋細胞の特に細胞膜に発現するイオンチャネルやイオンチャネルの機能を修飾する蛋白である.これら個々の遺伝子変異が来す心臓電気生理活動の異常を解析することによって,様々な不整脈のメカニズムが分かってきていた.
最近の次世代シークエンサーの開発によりゲノム上の塩基配列を解析する速度は飛躍的に上がってきており,未知の原因遺伝子を同定する手法として,従来からの方法と次世代シークエンサーを用いる新しい方法が現在では用いられている.従来からの方法としては,大家系を用いる遺伝統計学的な手法である連鎖解析と,変異蛋白が来す電気生理学的な機能異常を推測して遺伝子を選択して解析を行う候補遺伝子解析がある.次世代シークエンス法は30億塩基対からなるヒトのゲノム配列すべてを1週間ほどで同定できる.このため,全ゲノム解析法や蛋白をコードしている部分のみを選択して行う全エクソン(Exome)解析が可能となった.また,次世代シークエンス法によりゲノムワイド関連研究(genome-wide association study)も盛んに行われるようになった.次世代シークエンス法によって,心筋細胞の電気生理活動から予想される範疇を超えた原因遺伝子が明らかになるとともに,個体間における表現型の多様性(ばらつき)の原因も示されてきている.次世代シークエンサーの開発により,近い将来にはゲノム情報を基に行う個別化医療ないしはテーラーメイド医療が不整脈の分野でも応用されることが期待される.
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