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はじめに
2013年から2014年にかけて,欧州,米国,日本における新しい高血圧ガイドラインが相次いで発表され(ESH/ESC20131),JNC82),JSH20143)),糖尿病(DM)合併高血圧の降圧治療の方針が改訂された.新しいガイドラインにおける最も大きな変更点は,DM合併高血圧の降圧目標の引き上げである.旧版(ESH/ESC20074),JNC75),JSH20096))における降圧目標は,いずれのガイドラインにおいても130/80mmHg未満とされていたが,新しいガイドラインであるESH/ESC2013においては140/85mmHg未満,JNC8においては140/90mmHg未満に緩和された.このことは厳格な降圧治療が,DM患者の心血管リスクを必ずしも抑制しないことを示した介入研究である,ACCORD-BPとINVEST-DMを重視した結果と捉えられる.これらDM合併高血圧を対象としたエビデンスレベルの高いランダム化比較試験において,130/80mmHg未満を目指す降圧治療の有効性は十分示されなかった.その一方で,日本の新しいガイドラインであるJSH2014においては,これまでの降圧目標である130/80mmHg未満を踏襲している.その背景には脳卒中発症率が高い日本における,脳卒中予防の重要性に対する配慮がある.脳卒中の発症率は,心筋梗塞や心不全などの心イベントと比較して,血圧に強く相関することから,心筋梗塞に比して脳卒中の発症が多い日本では,DM合併高血圧の降圧目標を低く設定することが望ましいと判断された.
DM合併高血圧の治療に用いる降圧薬に関しても,新しいガイドラインでの変更が見られる.旧版であるESH/ESC2007ならびにJSH2009では,DM合併高血圧の第一選択薬としてRA系阻害薬(ARB,ACE阻害薬)が推奨されていた.新しいガイドラインであるESH/ESC2013では,ARB,ACE阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬,β遮断薬の5種の降圧剤すべてを第一選択薬としている.DM合併高血圧を対象としたランダム化比較試験において,心血管イベント発症抑制における薬剤間の有効性の違いが示されないことが,特定の薬剤を第一選択薬としない根拠とされた.一方JSH2014においては,従来通りRA系阻害薬をDM合併高血圧の第一選択薬として推奨している.RA系阻害薬を用いたこれまでの介入研究における,腎保護効果のエビデンスと,糖脂質代謝への良い影響を考慮した判断である.
本稿ではDM合併高血圧の降圧治療に関する,新しいガイドラインの変更点につき概説し,欧州,米国,日本それぞれのガイドラインの特徴ならびに立場の違いに焦点をあてる.目標血圧を130/80mmHgないし140/90mmHg未満に設定する根拠となる臨床研究に関しては,特に慎重に検討して,前半にまとめた.
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