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はじめに
哺乳類の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCN)に約24時間を刻む体内時計の存在が確認されている.SCNは中枢体内時計である.体内時計を駆動するための遺伝子群は時計遺伝子(clock genes)と呼ばれる.時計遺伝子は生体活動を規定する重要な遺伝子群である.SCNに発現する時計遺伝子は中枢時計遺伝子,その他の細胞,臓器に発現する時計遺伝子は末梢時計遺伝子と定義される1).
複数の時計遺伝子の組み合わせによる転写,翻訳の周期が約24時間であり,これらの分子生物学的機序は分子時計(molecular clock)あるいは概日時計(circadian clock)と呼ばれる.分子時計の仕組みは中枢も末梢も同じである1).最近になり睡眠覚醒障害,腫瘍,精神疾患,循環器疾患,糖尿病,肥満など,多くの疾患に関与することが明らかにされている.時計遺伝子が疾患に関わる機序として時計遺伝子の変異によって疾患が直接生じる場合と臨床疾患の病態が時計遺伝子群で構成された分子時計に影響を及ぼし,時計被制御遺伝子(Clock-controlled gene;Ccg,被時計制御遺伝子とも訳される)を介して間接的に合併症を生じる場合が想定される.
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)は睡眠呼吸障害(sleep-disordered breathing;SDB)の一つで,睡眠中の低酸素血症が特徴である.SDBのうち,最も頻度の多い疾患は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome;OSAS)である2).OSASは睡眠中の“いびき”が特徴的で,睡眠中に上気道の完全~部分的閉塞を来し無呼吸と低呼吸を繰り返す.その結果,間歇的低酸素血症,交感神経活動亢進などを認め,全身性炎症や高血圧症,耐糖能障害,動脈硬化の原因となり虚血性心疾患,脳血管障害を引き起こす重要な疾患である.本稿では,時計遺伝子群が構成する分子時計の仕組みとSDBの代表的疾患であるOSASが時計遺伝子に対して影響を及ぼす機序を解説する.
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