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「心不全」,「呼吸不全」は,病気の名前ではなく,「病態」であります.いろいろな臓器で不全状態がありますが,「dys-function」とは,まことにストレートな表現であり,定義のあいまいさには目をつぶって,この用語が使い続けられている所以だと思います.ところで,心不全で損なわれる「function」は,どこに局在しているのでしょうか? 線維化・肥大・心筋脱落などの組織所見があっても,心不全が(ほとんど)存在していなかったり,組織変化がなくても心不全が明らかなこともあります.「駆出率の保たれた心不全(HFPEF)」で,損なわれているものは,「心臓の『拡張能』だ」としても,英語でいうと「diastolic dysfunction」ですから,ほかの機能にバトンタッチしたにすぎません.拡張能の局在は,「心筋」と言い切れるでしょうか.「心臓超音波で拡張能の指標が低下していて,BNPが上がっている状態」を(「心不全」のかわりに)「肺循環還流不全症」と命名してもいいかもしれません.そのように命名したうえで,念を押して,「cardiac」なものと,「non-cardiac」なものがある,とでもしておくと学術的な格調も十分に見えます.また,利尿薬で心不全症状は軽減しますから,「腎利尿ミスマッチ症候群」と命名して,「low-sodium type」と「normo-sodium type」などと分類してみても,なんとなくそんな気になってきます.
結局,あるfunctionが損なわれている場合,問題となる身体的部分を特定できないこと,逆に言うと,いろいろな表現で言及できる可能性が見えてきます.「痛み」や「不快感」なども,外に取り出して示せませんから,functionかどうかはわかりませんが,局在を特定できない可能性があります.ヒトでは(ほかの動物のことはわからないのですが),調子が悪いときに,「どこ」が悪いのかは「実感」に基づいているのが普通だと思います.「飲みすぎ」では,「胃」に変調を来している,と思うわけで,「脳における嘔吐中枢が,アルコールの中間代謝物によって…」とは「思わない」.身体は「胃が悪いから,もう飲まないで」と行動変容してほしい,というサインを送っている,と「思う」.
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