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はじめに
KRASは,1980年代初頭に,ラット肉腫ウイルス〔Kirsten's rat-sarcoma(RAS)virus〕と相同性を示し,培養細胞(マウス線維芽細胞)に形質転換(培養条件でのがん化)を誘導する遺伝子として,Harvey's RAS(HRAS)とともに,ヒト膀胱癌細胞から単離された1,2).続いて間もなく,ヒト神経芽細胞腫からneuroblastoma RAS(NRAS)が同定され,これら三種のRAS遺伝子は細胞性がん遺伝子(cellular oncogene=proto-oncogene)の概念の礎を築いた1,2).RASファミリーがん遺伝子は,分子量21KDのGTP結合膜蛋白質をコードしている.RAS蛋白質は,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)などの受容体型チロシンキナーゼからの刺激を受け,MAPK(mitogen-activated protein kinase),RAL-GDS(ral guanin nucleotide dissociation stimulator),STAT(signal transducer and activator of transcription),PI3K(phosphoinositide 3-kinase)の複数の経路を介して,細胞増殖,運動,分化,細胞死など様々な生物事象に関わるシグナルを伝達する3).RAS遺伝子の変異は,そのほとんどが活性制御部位であるコドン12,13,61に起こっている.変異型RAS蛋白質は恒常的活性化状態となり,細胞増殖,運動,分化,細胞死の制御に異常を来し,がん化を引き起こすと考えられている4).RASファミリーのうち,ヒト悪性腫瘍において最も高頻度に変異を来しているのがKRAS遺伝子である5).
KRASがん遺伝子の発見から30年以上が経過し,様々な分野において多くの研究成果が蓄積されてきた.しかしながら,KRASをターゲットとした有効な分子標的治療は,未だ確立されていない.KRAS遺伝子変異を伴う悪性腫瘍の特性のさらなる理解は,新規治療法の開発に繫がる重要課題である.
本稿では,KRAS遺伝子変異を伴う肺癌の病理組織学的,疫学的特徴,発生・進展の分子機構,また,KRAS遺伝子変異の臨床的意義,特に個別治療における分子マーカーとして位置づけと,今後の展望について述べる.
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