Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
脂質異常症は,高血圧や糖尿病,喫煙などとともに冠動脈疾患の重要な危険因子である.その脂質異常症をscreeningするうえで一般的な検査項目は,総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロールであるが,そのなかでHDLコレステロールは善玉コレステロールと言われるように「よい」コレステロールと考えられている.その理由としては,Framingham Heart StudyをはじめとしてHDLコレステロールが冠動脈疾患に対して保護的に働くという臨床試験が多数報告されていることが挙げられる.本邦の動脈硬化性疾患予防ガイドラインにおいても,HDLコレステロールが40mg/dl未満の場合は,低HDLコレステロール血症と診断され,脂質異常症に分類される.
また,近年“beyond LDL cholesterol”という戦略が動脈硬化性疾患予防のために全世界的に注目を浴びている1).これは,LDLコレステロールを低下させることによって,動脈硬化性疾患を予防できる,という事実は様々な臨床研究より証明されてきているが,一方で,たとえLDLコレステロールをスタチンで代表される脂質異常症治療薬によって正常値まで低下させたとしても,動脈硬化性疾患の発症率を脂質異常症のない健常人と同じレベルまで低下させることができない,という臨床試験の結果に基づいている.この単にLDLを低下させることによっては低下させることができない動脈硬化性疾患の危険を残存リスク(“residual risk”)と呼び,このリスクを減らすことを目的に様々なバイオマーカーの検索や介入試験が行われている.HDLコレステロールは,中性脂肪やレムナントリポ蛋白などと並んで,この“beyond LDL cholesterol”戦略における対象の一番手であると位置づけられている.
一方で,HDLコレステロール値は,“HDL”というリポ蛋白中のコレステロール含有量を表しているが,そのHDLの機能については,まだはっきりしていないことも多い.CETP(コレステリルエステル転送蛋白:Cholesteryl-ester transfer protein)阻害剤をはじめとするHDLコレステロール値を増加させる薬剤の研究も近年盛んであるが,十分な成果を挙げているとは言い難い.そこで本項では,HDLの古典的な役割といえる逆転送系における役割,コレステロール代謝とは直接には関係のないHDLの多面的効果,そして最近注目を浴びてきているHDLの多面的効果を部分的に説明できるであろうと考えられているHDL上のリゾリン脂質であるスフィンゴシン1-リン酸について説明する.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.