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高齢者における薬物動態研究に関する概要
高齢者は薬物有害事象に曝されるリスクが高く,特に個々の患者に適した薬用量の設定が有効かつ安全な治療を実現するうえでの最重要事項となる.薬物血中濃度は薬物治療における客観的指標であるが,薬物によっては用量-血中濃度の関係において大きな個体間差が存在し,特に高齢者においてこの個体間差が顕著となる.用量-血中濃度の関係は薬物動態学として研究され,薬物代謝酵素,薬物トランスポーター,併用薬,肝腎機能,血行動態,疾患などの様々な要因が薬物動態を変化させ個体間差の背景因子となっている.経口摂取された薬物は,①消化管からの吸収(absorption),②血中蛋白との結合と組織への分布(distribution),③肝臓での代謝(metabolism),④排泄(excretion)という過程をたどる.これらの薬物動態に影響する4過程における加齢変化を最近の知見を交えながら概説する.
吸収相においては,胃酸pH,消化管血流,蠕動運動,小腸トランスポーター,小腸cytochrome P450(CYP)などが薬物の小腸からの吸収に影響する.高齢者では胃酸分泌能が低下していることが報告されているが,この胃酸酸度の低下により,弱酸性薬物はイオン型の割合が増えて吸収効率が低下し,逆に弱塩基性薬物は吸収効率が増加する.また,加齢に伴い消化管神経叢の減少による消化管蠕動運動の低下や消化管血流の低下が生じているが,このような消化管の変化は,薬物吸収遅延を生じ最高薬物濃度(Cmax)や最高薬物濃度到達時間(tmax)に影響するが,体内に取り込まれた総薬物量を反映するAUC(area under the curve,薬物血中濃度-時間曲線下面積)自体を大きく変化させるまでに至ることは少ない1).受動拡散による消化管薬物吸収は加齢による影響をほとんど受けないが,トランスポーターを介した吸収過程は加齢による変化を受ける可能性がある2,3).近年,このトランスポーターの遺伝子多型や薬物相互作用が注目されており,CYPと同様に薬品開発時の重要検討項目になりつつある(トピックスの項参照).
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