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はじめに
脊椎動物の呼吸中枢に関するこれまでの知見は,主として電気生理学的手法によって集積されてきた1~3).呼吸と同期して発火するいわゆる呼吸ニューロンは,延髄,橋,頸髄,中脳などに広く分布しているが,呼吸の基本的リズムは,延髄腹外側において左右一対ずつ吻尾側方向に存在する呼吸ニューロン群から構成される神経回路によって生成されている(図1).ほとんどの呼吸ニューロンは,ある特定の呼吸相に抑制性のシナプス入力を受けており4),そのシナプス入力を担う抑制性介在ニューロンの多くは,Bötzinger complex(BötC)と呼ばれる延髄腹側網様体の一領域に存在する1).一方,顔面神経核の腹尾側に位置するparafacial respiratory group(pFRG)5)と,より尾側の延髄腹側に位置するpreBötzinger complex(pre-BötC)6)には,シナプス入力を遮断した状態でも自律的に周期的活動をするペースメーカー特性を持った興奮性ニューロンが存在しており,少なくとも新生児期のvitro標本では,リズム形成の中核であることが分かっている.これらの呼吸ニューロン間の神経結合様式は,Spike-triggered averaging法や逆行性微少電気刺激法といった電気生理学的手法,あるいは順行性/逆行性神経トレーサーによって明らかにされてきた7).しかし,このような電気生理学的手法は一つのニューロンの軸索投射を同定するのに多大な労力と時間を要し,逆行性微少電気刺激法には,同定された軸索投射が実際に機能しているかどうかが分からない,神経結合が抑制性か興奮性か分からないといった問題点が,またSpike-triggered averaging法には神経回路網全体の挙動にどれだけ寄与しているか分からないといった問題点があった.そこで多電極法が開発され,神経回路網全体の挙動を解析するために用いられてきたが8),それでも空間分解能は十分とは言えなかった.また,電気生理学的手法では細胞内で起こっているCa2+シグナリングやpH変化の解析を行うことができない.蛍光イメージング法は,このような電気生理学的手法の限界を克服できる可能性を持っている.蛍光イメージング法では,細胞に膜電位変化あるいはCa2+,H+,Na+などの濃度変化に対して蛍光強度が変化する特殊な色素を取り込ませ,時系列画像から蛍光強度の時空間変化を解析する9,10).
本稿では,呼吸中枢神経回路網に対する蛍光イメージング法の適用例と限界点について述べ,今後の展開を予測する.
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