- 有料閲覧
- 文献概要
内田樹氏と高橋源一郎氏の著書の一節に「島根は日本の未来です」という項がある.島根は超高齢少子化で人口が減っていて,たぶん今から20年後の日本を先取りしている,ということらしい.「人がいないし,経済もぱっとしないし,つまんないよ」ではなく,「島根はおもしろい.日本の未来だから」という楽しむマインドが必要かもしれない.
日本の高齢化が急速に進んでいる.65歳以上の人口割合である高齢化率は,2009年には22.7%であったのが,団塊の世代やその子供の世代(団塊ジュニア)が高齢者に移行するに伴って上昇ペースが加速し,2024年に30%,2052年には40%を超えてしまう.日本は現在5人に1人が高齢者であるイタリアやドイツなどと並んで高齢化率が高い国の一つである.2003年のヨーロッパの統計では,弁膜症のなかで最も多くを占めるのは大動脈弁狭窄症(43%)である.大動脈弁狭窄症のなかで多数を占めるのが高齢者の加齢性変性による狭窄症であり,高齢化社会のわが国では今後ますます頻度が増えてくると考えられる.島根県は高齢化率日本一であり,高齢化率だけみれば確かに「島根は日本の未来」である.そこで島根大学医学部附属病院の心エコー検査室で最近の5年間,重症大動脈弁狭窄症(弁口面積<1.0cm2,大動脈弁通過血流速度≥4m/秒)と診断された患者を調べてみると54%が80歳以上であった.80歳以上の例でその後手術を施行された例は35%であり,80歳以上の重症大動脈弁狭窄症の3分の2は手術がされていなかった.無症状であることや手術がハイリスクであること,あるいは本人,家族の意向などが手術をされていない主な理由である.また,80歳以上の重症大動脈弁狭窄症の70%は女性であり,体表面積が平均1.35m2であった.今,目の前に重症大動脈弁狭窄症の小さな80歳代の女性がいる.大動脈弁狭窄症の患者層が高齢化するなかで確立した薬物治療はなく,最終的には手術が必要となる.今は畑仕事ができるが何年か先に手術を考えないといけなくなるであろう.あるいは今元気なうちに手術を勧めるべきか.わが国でも経カテーテル大動脈弁留置術ができるようになり,これまでの考え方は変わっていくはずである.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.