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はじめに
やせや肥満は,一般にbody mass index〔BMI=体重(kg)/身長(m)2〕を用いて判定されている.日本肥満学会では,普通体重をBMI=18.5~24.9(kg/m2)として,BMI<18.5(kg/m2)をやせ(低体重)と定義している.WHO(世界保健機関)も同様に,BMI<18.5を「underweight」とし,さらにBMI<16.0を「severe thinness」,BMI 16.00~16.99を「moderate thinness」,BMI 17.00~18.49を「mild thinness」と分類している1).WHOが発表している各国からの集計では,やせの人の割合(%)は,インド32.9,日本11.5,英国5.1,米国2.4となっており,日本は,欧米よりやせが多く,逆に肥満の割合は欧米より少ない(BMI≧25.0の割合:日本23.2,米国66.9%).
BMIと平均余命との関係をみると,欧米の57の前向き研究を基にした大規模な解析2)では,男女ともBMIが22.5~25kg/m2の群が最も死亡率が低く,それよりBMIが高くても低くても死亡率は上昇し,その理由としてBMIが低いほうについては,呼吸器疾患や肺癌に関連していたと報告している(図1).わが国におけるコホート研究の結果3)でも,40歳時のBMI別で平均余命をみると,男女ともに過体重(25.0≦BMI<30.0)で最も長く(男性41.64年,女性48.05年),次いで普通体重,肥満,やせ(男性34.54年,女性41.79年)の順であり,やせが最も短いものであった.また,20歳時からの体重変化と死亡率との関係を調べた研究4)では,5kg以上体重が減少した人は,体重変化が小さかった人に比べ,男性で1.44倍,女性で1.33倍死亡率が高く,逆に20歳時から5kg以上体重が増加した男性は,死亡率が0.89倍と低かったと報告されている.このようにBMIは,寿命を予測する強力な因子であり,やせは寿命を短くする因子として影響していることが分かる.近年,生活習慣病として肥満の問題が社会的に多く取り上げられ,社会風潮としてもやせていることへの賛美が見受けられたりしているが,やせの割合が欧米に比べて多いわが国では,やせに対する正しい認識や対策が重要のように思われる.呼吸器疾患領域においても,睡眠時無呼吸症候群のような肥満が問題になる疾患もあるが,COPDをはじめとする慢性の呼吸器疾患では,むしろやせに対する対策を要するものも多い.しかし,やせの機序や呼吸器疾患との詳細な関係などについては,まだ不明な点の多いテーマでもある.
例えば,極端なやせを呈する代表的な疾患として,神経性食思不振症(anorexia nervosa;AN)があるが,本疾患における呼吸器の異常を調べることで,やせや栄養障害そのものの呼吸器系への影響を知ることができる点で注目される.BMI 16±1kg/m2のAN患者を対象に肺機能を調べた研究5)では,肺拡散能(DLco)の低下や最大吸気筋力・最大呼気筋力の低下が報告されている.また,AN患者の胸部CT画像を検討した研究6)では,健常群に比べ,肺気腫の定量評価に用いられる肺野低吸収領域の割合(肺野における閾値以下の低吸収領域の面積の割合)が増加し,平均肺野濃度はBMIと相関したとされている.飢餓状態までカロリー制限をした小動物による実験7,8)でも,肺気腫に似た末梢気腔の拡大がみられ,摂食制限を解くと改善することが報告されており,上記AN症にみられる結果を支持していると考えられるがその詳細な機序は明らかではない.
本稿では,主にBMIと呼吸器疾患との関係の観点から,やせと関係すると報告されている主な呼吸器疾患についてまとめることで,呼吸器診療におけるやせの問題について考えてみたい.
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