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はじめに
1990年以降,“多枝病変”を対象にCABGとPCIを比較したランダム化試験が数多く行われてきた.その結論の多くは,CABGとPCIで死亡率,心筋梗塞回避率に差はないが,PCIは再血行再建率が高いというものであった.一方で,2枝病変・3枝病変を対象にした観察研究では,PCIのデバイスを問わずCABGが有意に優れた生命予後改善効果と心筋梗塞予防効果を持つ,という結果であった.なぜ,ランダム化試験と観察研究で異なる結果が出たのか? 二つの異なる治療法の効果を比較する際,ランダム化試験は最も信頼度の高い方法であり,レベルの高いエビデンスは複数のランダム化試験やメタ解析から明らかになる.しかし,ランダム化試験はわれわれが知っておくべきいくつかの特徴を備えている.ランダム化試験の候補になる患者はいずれの方法でも治療対象となり得ることが条件となる.そのため,スクリーニングの段階で大部分の候補が除外されることになる.
表1に多枝病変に対するCABGとPCIの治療効果を比較した15のランダム化試験の患者背景を示した1).この表から明らかなように,これらのランダム化試験は左主幹部病変,3枝病変の患者をほとんど含んでいない.また9,000人弱の患者数は,候補となった全体集団のわずか5%に過ぎず,スクリーニングの段階で残りの95%の患者は除外されている.つまり,これらのランダム化試験は“多枝病変”とはいえ,われわれが日常診療でしばしば遭遇する左主幹部病変や3枝病変などの高リスク多枝病変を反映しておらず,選び抜かれた一部の低リスク症例を対象にしている.この点がこれまでに行われてきたCABGとPCIのランダム化試験の特徴の一つであり,注意を要する点である.
また,ランダム化試験は少なくとも以下の二つの理由でCABGの効果を過小評価する可能性があった.1)CABGは,5年以上の遠隔期においてより大きな治療効果を発揮するが,ランダム化試験の経過観察期間は通常5年以内と短期間であるため,2)再血行再建率が高いPCIは経過中にCABGを必要とすることがあるが,Intention-to-treat解析では,PCIに割付けられた患者がCABGを受けても,その患者はあくまでPCIグループとして解析するためである.
一方,観察研究などの非ランダム化試験の多くは後ろ向き試験であり,real worldを反映している利点がある.しかし当然のことながら,CABGとPCIで患者背景がしばしば異なる.この患者選択バイパスを最小限にするために多変量解析や傾向スコア(propensity score)を用いた解析を行うことになるが,真の治療効果の比較には限界がある.このように,それぞれの試験が持つ利点や限界を十分に理解して解釈することが重要である.
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