Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
冠動脈硬化症による虚血性心疾患に対する冠血行再建術は,冠動脈バイパス術(CABG)とカテーテルインターベンション(PCI)である.CABGは1970年初頭頃より臨床応用され,1990年代に入って当時の内科治療と比較したランダム化試験のmeta-analysisによってその生命予後改善効果が明らかとなった1).一方,CABGより遅れて臨床応用されたバルーンカテーテルによるPTCAはその後ステントの登場によって再狭窄率の低減が図られ,2000年代には薬剤溶出性ステント(DES)の登場によってさらなる進歩を遂げつつある.
この二つの血行再建法に関しては,長い間ランダム化比較試験が繰り返された.それらの比較試験の結果は一言で言えば,再血行再建率はPCIがCABGより高いが生命予後はCABGとPCIは変わらないというものであった.しかし,冠血行再建術としてのCABG,PCIはともに術者によるバイアスが入りやすく,ランダム化比較試験に馴染まないことと,比較するcohortがいずれの方法が選択されてもよいとの条件から本来CABGの適応となるLMT病変例や重症3枝病変例,低左心機能例などが除外されていたことにより,ランダム化比較試験の結果からPCIとCABGは血行再建法として同等の効果があるとの誤った結論が一人歩きしてきたのが実情である.
この項のはじめに,PCI・CABGの血行再建法の本質的な相違点を述べる.
PCIは血管内治療法であり,大腿動脈あるいは上肢動脈から左右冠動脈入口部を経由して冠動脈病変部に到達する.血行再建法としてはカテーテルによる拡張とステント留置であるが,病変部に対して直接的に機械的開大を行う.単一血管に複数病変が存在しても,病変長が長くても中枢から末梢部に向かって順行性に開大して行かなければならない.血行再建の成否に影響する因子は,アクセスルート,病変の性状によって様々であり,長期予後(再狭窄)に影響する因子も数多く存在する.全て,血管内治療法として粥状硬化病変を直接的に拡大する手技であるがゆえのものである(図1).
CABGは血管外からの治療法であり,冠動脈の閉塞性病変自体には全く触れることなく,病変より末梢にグラフトを吻合して新たな血流ルートを作成する.中枢側病変の状態には無関係に病変箇所の多少にかかわらず幾つもの血流ルートを作り出すことができ,中枢側病変が進行しても末梢心筋を虚血から護ることが可能となる.近年強調されているdistal protectionを行う治療法である.長期予後を左右する因子はひとえにグラフトの開存性である(図2)2).
虚血性心疾患治療の現場では,洋の東西を問わずこのような治療法の相違点を考慮せず,限られた症例によるランダム化比較試験の結果から生命予後に関してはPCIとCABGは同等であるとの神話が作られてきた.
Evidence based medicineの考えからは強いエビデンスを重視すべきであるが,このような背景や,治療法の相違点を念頭に置いてエビデンスを読み解かなければならない.
筆者に与えられたテーマは糖尿病例・高齢者・低左心機能例に関するPCI/CABGのエビデンスであるが,これらのカテゴリーはエビデンスとしても,また臨床現場においてもCABGの優位性が高いと考えられてきた.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.