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はじめに
これまでの研究により,心血管病において慢性炎症が重要な役割を演じていることが明らかとなった.したがって,抗生物質による治療が心血管病の2次予防に有用であることが示唆されている1).Sinisaloらは,CLARIFY(Clarithromycin in Acute Coronary Syndrome Patients in Finland)試験において,抗生物質の急性冠症候群2次予防における有用性を報告している.本試験においては,急性心筋梗塞または不安定狭心症患者を無作為かつブラインドでクラリスロマイシンとプラセボ投与群に分けて,3カ月間観察した.その結果,クラリスロマイシンは心血管イベントを有意に抑制したことを報告した2).さらに,長期のクラリスロマイシン治療は非歯周病患者3)と補体C4欠損患者4)において心血管病の再発予防に有用であることを報告した.一方,Jespersenらは短期のクラリスロマイシン治療は安定した冠動脈疾患患者の心血管死亡率を有意に上昇させると報告した5).さらに,彼らはスタチンの併用療法がクラリスロマイシンによって上昇した死亡率を打ち消すことも明らかにした6).これらに関して,Bergらは,その冠動脈疾患2次予防における対立した結果の違いを病理学的機序から明らかにしようとしたが,クラリスロマイシンは動脈硬化患者において種々の炎症因子〔C-reactive protein, interleukin(IL)-2 receptor, IL-6, IL-8, and tumor necrosis factor(TNF)-alpha〕を変化させなかったと報告している7).したがって,今日までにクラリスロマイシンが心血管疾患においてどのように影響しているかを明らかにした報告がなく,課題となっている.
クラリスロマイシンは抗生物質として広く臨床で用いられているが,最近抗菌作用以外の様々な生体内活性が明らかとなった.特に,matrix metalloproteinase(MMP)に対する効果は,様々な病態に影響していると考えられている8,9).MMPは様々な循環器疾患においても活性化されていることが知られており,心筋炎10~13),心臓移植14,15),心筋梗塞16,17),大動脈瘤18,19)などで特に顕著である.しかし,これらの循環器疾患においてクラリスロマイシンがMMP制御を介してどのように影響するかについての検討はこれまでなされてこなかった.この総説において,われわれは心血管疾患においてMMPがどのようにその病態に影響しているかを概説し,クラリスロマイシンの心血管疾患に対する可能性を,われわれの最近の報告を中心にまとめてみたい.
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