- 有料閲覧
- 文献概要
われわれ循環器医師は,救急の現場をこれまで数多く経験してきた.急性心筋梗塞や急性心不全で搬送される患者さんを救命することが精一杯で,何とか処置をして救命しえた時の満足感と充実感がわれわれを救急の現場に立ち向かわせていた.また,先輩の先生方に怒られながら,検査や処置を覚えてそれから文献や教科書を読んで,理解したことが多かった.それだけ,出来が悪かったのかもしれない.しかし,その場で一生懸命患者さんを診たことで自分の自信にもなったし,たとえ救命できなくても患者さんの家族には感謝されたものである.
ところが,今その現場が大きく変わりつつある.医療側の変化として初期臨床研修医制度が導入されて,初療に対する研修医のMotivationに個人間格差があり,教える側としては均一な教え方ができなくなっている.教育というのは均一でなければサイエンスにはならない.しかし,その場で判断して治療をしなければならない救急現場ではサイエンスでなく,センスというアートの才能も育てなければならない.理解していても,体が動かなければ救命ができない.丁度,ゴルフのスイングの理論がわかってもベストショットができないように.いかにしてセンスを育てるかサイエンスにしていかねばならないのだが.理路整然と説明して理屈がわかっても処置のために体が動かなければ,間に合わないのが救急現場である.緊急の現場で体が動くようになるか否かは,研修医のMotivationにかかっているのだが,救急現場に不向きな研修医もいるのも事実である.いくらスイングの理論を教えても,うまく球を打てないように.医療のアートの部分とサイエンスの間で,教える側も教えられる側も混乱している.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.