わたしの大切な作業・第48回
アーティストもSDGsで
大野 隆司
pp.293
発行日 2022年4月15日
Published Date 2022/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202922
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私の一番の作業は、版画家ですから、板を彫っているところかと思いきや(別に誰も思っていなかったり)、本当は、その前の段階のアイデアを考えているところと言えましょうか。しかし、これがまた仕事をしているように家内には見えないのです。我が家の三びきの猫と同じようにダラーッとしているだけ、のように見えてしまう。ボクは今、すごい仕事を成そうとしているのだ、と発言しても、ウソでしょ、ボーッとしているように見えます。NHKのあの子に叱ってもらいなさい。
つまり、私の作業時間とは、何もしていないこと、なのです。2030年までに達成出来るかどうかわかりませんが、あの項目を読んでいくと、木を彫ったり紙に摺ったりすることが、どうも罪悪のように思えてしまうのです。熱帯雨林の森を侵している一人ではないか。どうでもいいような木版画を作らなくてもいいのではないか。何のことかといいますと、SDGsのことです。企業だけでなく一人ひとりの課題として、本気で自覚しなければ、この地球、私たちの子孫は不幸になってしまう。そこで私のすべきことは、何もしない、ということになるのでしょうか。息だけしている。木も紙も使わない木版画家になる。うーん、どうしたらいいのだろう。ひとつの方法としては、木ではない物に彫り、熱帯雨林ではなく、本当の手漉きの和紙を使う。木ではないとなると合成樹皮の板もあるのでそれがいいか。しかし、石油製品ではないのか。手漉きの和紙は今も使っていますが、木片から作られている機械漉きの紙に比べるとかなり高価だ。失敗したらどうしよう……。
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