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2008年9月,私はアメリカ合衆国東海岸にあるダートマス大学(ニューハンプシャー州,ハノーバー市)で開催されました日本-米国-ロシア3国医学カンファレンスに参加していました.このカンファレンスは前年度,極東ロシアの中心都市ハバロススクで開催され,合同会議としては第2回目となるものでした.ちょうどこの時期は折からの,原油や食料価格の異常な上昇がみられ,何となく世界情勢が不安定な感じがするなかでの会議でしたが,話題の中心であった心血管疾患を主とする生活習慣病や悪性疾患に関しては,わが国が臨床,研究の両面で主導的役割を果たしていることを改めて示す機会となり,会議は成功裡に終了しました.しかし,この会議の間中,地元新聞やテレビのニュースでは,どこも住宅ローンの不良債権問題を取り上げ,何かアメリカ発の経済恐慌が起こるのではないかという雰囲気が漂い始めていました.そして,滞在中の9月16日,遂に大手金融会社であったリーマンブラザースが破綻したとの報道を機に,ニューヨーク株価やドルの下落など,今なお,光明の見出せない状況となった発端に現地で遭遇することとなりました.2カ月後の11月にアメリカ心臓協会(AHA)の年次学術集会がニューオリンズで開催され,教室員と参加しましたが,早速この経済ショックの影響が出ていました.まず,参加者の数が例年に比しかなり減少したこと,また,市内のホテルやレストラン(例年はなかなか予約がとれない)も混雑なく,初めて参加した若い先生からは少し予想と違ったとの感想があったぐらいです.参加者の減少は,アメリカ国内はもちろんですが,主として同じく経済ショックを被っているヨーロッパ諸国からの参加の大幅な減少が影響したと伝え聞きました.
この話題を巻頭言に取り挙げましたのは,この経済ショックがわが国における,循環器病診療,研究,教育に少なからず影響を与えることを憂慮したからです.これまで,多くの臨床・基礎研究をアメリカとの共同で進めて参りました.実際,アメリカ合衆国主要施設での研究費が推定で30%程度カットされるとの事態も報じられ,場合によっては研究を途中で打ち切らざるを得ないことも予想されます.わが国の現状,今後についても決して楽観視はできないと思います.昨年アメリカ発の経済ショックが報道された際,「日本にとっては蜂にさされた程度の問題であろう」との日本の高官の発言があったと記憶していますが,現状をみる限りこの蜂はヒトの生命にも危害を加える「スズメ蜂」級であったようです.もちろん,これは一時的なものであって,長期的にみればいずれ回復するとの楽観的な見方もあるかもしれませんが,大学での教育,研究,診療のより効率化が求められることとなることが予想されます.しかし,このような時こそ,若い力の結集が欠くことのできない要素と信じています.幸い,日本での循環器関連の学術集会やAHAやアメリカ心臓学会などに積極的に応募しようという若い臨床研究者が増加しているようです.丑年らしくしっかりと腰を据えて,彼,彼女らの育成に力を注ぐことが私たちに課せられた重要な使命となりましょう.
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