巻頭言
半世紀を経た肥大型心筋症
古賀 義則
1
1久留米大学医療センター循環器内科
pp.347
発行日 2008年4月15日
Published Date 2008/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101046
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肥大型心筋症(HCM)が臨床的に認識されるようになった1950年代後半から約半世紀が経ち,ようやくその全貌が明らかになってきた.本症は当初特異的な病態である左室流出路狭窄が注目され,BraunwaldらのIHSS(特発性肥厚性大動脈弁下狭窄)やGoodwinらのHOCM(閉塞性肥大型心筋症)の病名で親しまれてきた.その後,HCMは心室中隔を中心とする非対称性肥厚,拡張不全,心室頻拍,塞栓症など形態的にも機能的にも多彩な病態を示す疾患であることが明らかとなり,Maronは1988年までに実に77にのぼる病名がHCMに対してつけられていると述べている.このようにHCMは最近までまさに恩師戸嶋裕徳久留米大学名誉教授が述べたごとく「群盲象を撫ず」の状態で,その本態は不明であったといえよう.
しかし,分子遺伝学の進歩により1990年,遂にHCMの病因の一つとして心筋βミオシン重鎖遺伝子の点変異が発見された.そして,その後続々と病因遺伝子異常が同定され,HCMではこれまでに心筋βミオシン重鎖,心筋トロポニンT,心筋ミオシン結合蛋白Cなどの少なくとも10種類以上のサルコメア(関連)蛋白遺伝子に200以上の変異が明らかにされている.このようにHCMは単一の病因による病気ではなく,その実体はまさにキメラ(ギリシャ神話に登場するライオンの頭,ヤギの体,ヘビの尾をした火をはく怪物)のごとき,いやそれ以上の怪物であったといえよう.
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