書評
―坂井建雄 監訳 小林靖・小林直人・市村浩一郎 訳―グラント解剖学図譜―英語版CD-ROM付第5版
小澤 一史
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1日本医科大学大学院・生体制御形態科学
pp.1392
発行日 2007年12月15日
Published Date 2007/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404100951
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大学医学部・医科大学における解剖学実習は,医学部教育の根幹をなす極めて重要な実習の一つである.解剖実習では,教師は基本的事項,重要事項の道標を灯し,学生はそれをもとに自らの努力で,精緻に富み,機能と合理的に対応する人体の構造を学び,身につけていく.したがって,自ら学ぶ際の,信頼できるテキスト,アトラスとの出会いが,その後の学習効率を高めることはいうまでもない.
今回,グラント解剖学図譜第5版の日本語版が出版の運びとなった.“Grant's Atras of Anatomy”は,世界における最も優れた,詳細なスタンダード解剖学テキストとして,大きな貢献を残してきているが,その図譜もまた極めて優れた本である.本書の特徴は,なんといっても図が見やすく,豊富なことである.しかも,その図が多角的な視野から描かれており,人体構造を三次元的に理解するための大きな手助けとなる.このことは,人体解剖という目の前の「三次元」を考えるうえで,極めて有用なツールとなることを意味している.近年の解剖学は,ただ身体の構造を知るだけの学問の概念をはるかに超えて,解剖学が臨床医学を学ぶ際の重要な課題解決の基盤となることを理解するのが大切なことと認識されている.その意味から,解剖学教育の現場では,すでにX線造影像,血管造影像,CT,MRIといった画像が紹介され,実際の解剖による観察との対比も積極的に行われている.その現状にぴったり当てはまるように,本書では随所にこれらの画像が加わり,まさに基礎医学と臨床医学を連結する立場も示され,学生に対し,医学部において解剖学を学ぶことの意味,意義を自然と伝えている点が高く評価される.
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