書評
—Anne M. R. Agur,Arthur F. Dalley(原著) 坂井建雄(監訳) 小林 靖,小林直人,市村浩一郎,西井清雅(訳)—グラント解剖学図譜 第8版
森 正樹
1
1東海大
pp.1360
発行日 2022年11月20日
Published Date 2022/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407213953
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本書の原著はスコットランド生まれでカナダのトロント大などで活躍したGrant教授により1943年に初版が出版された.本書はその第15版の日本語訳本であり,坂井建雄先生の監訳のもと4名の卓越した解剖学者の翻訳により出版された.原著は当初より専門教育を受けた医学画家の手により精密に描かれており,その後,多くの関係者の手に引き継がれながら完成度を高めてきた.当初は木炭粉画で白黒調だったが,原画の高解像度スキャンによる再彩色により,魅力的な器官の輝きと組織の透明感が高まり,単なる彩色では達成できない深い可視化ができており,臨場感が一段と増している.
坂井先生が序で書かれているように,本書は「知識をもとに頭の中で組み立てられたもの」ではなく,一切の予備的知識を捨てて,純粋にありのままの姿を描くことを基本としている.例えば外科医が初期に行う手術として鼡径ヘルニアの手術がある.多くの外科書では鼡径管と周囲臓器の関係が概念的に描かれているので,研修医には理解が容易でない.私自身も外科医になりたてのころは,実際の解剖学的鼡径管の構造が理解できなかった.本書では二次元図ではあるものの,深鼡径輪から浅鼡径輪までの道筋が周囲の筋肉や靱帯と共に俯(ふ)瞰(かん)的に描かれており,極めて容易に理解できる.
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