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Anne M. R. Agur,Arthur F. Dalley(原著)/坂井建雄(監訳)/小林 靖,小林直人,市村浩一郎,西井清雅(訳)『グラント解剖学図譜(第7版)』
竹田 扇
1
1山梨大学・解剖学
pp.782
発行日 2016年9月15日
Published Date 2016/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429200639
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現代解剖学の規範的アトラス─変わらないものと,進化するもの
人間は規範(norm,ノルム)を求める.自らの相対的位置を規範に照合して決めることで,落ち着き,安心できるからである.では,何が規範たりうるのか.現代はインターネットを使ったサイバースペースに情報が満ち溢れており,何を規範としたらよいのかを決めかねる時代である.そこでの情報は玉石混淆であり,かつ専門家や同好の士の査読を経ていないため多くは信頼できず,当然規範とはなり得ない.一方,それぞれの分野で数多の成書が用意されていると,規範とすべきものを選定する判断基準が問われる.このとき,長く版を重ね続けてきた教科書,参考書にはやはり規範たりうる理由がある.そこには伝統というたすきで受け継がれた,変わらない,確かな知識が存在するためである.
『グラント解剖学図譜 第7版』はまさにそのような,解剖学における規範的な知を求める者にとって好適なアトラスであると言える.1943年の初版以来,実に70年以上続いている名著であり,原書は既に13版を重ねている.本書の最大の特徴として,初版より続く実物の観察によって描かれた多くの図版があるが,そこには熟練の解剖学者の肉眼を通じて得られた視覚情報が見事に捨象,統合された構造物として描かれている.これらは初学者が実際に人体を解剖しながら学ぶうえで,写真アトラスでは代用のできない頼りがいのある案内役となるであろう.
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