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大動脈弁狭窄症(aortic stenosis, AS)をめぐる最近の話題
ASの病因は大きく先天性(二尖弁),リウマチ性,変性(石灰化AS)の三つに分けることができる.これらの発見率は年齢層によって異なり,若年から中年では先天性,中年ではリウマチ性,中年から高齢者までは変性に基づくものが多い.このなかでも高齢化に伴って最近問題となっているのが変性性のASである.このASは65歳以上の2~7%に認められ,また加齢とともに有病率が上昇することが知られている.さらにその前段階と考えられる大動脈弁硬化(aortic sclerosis)に至っては,65歳以上の26%にみられ,75歳以上では37%に認められるといい,決して稀な病態ではない1).変性ASはいったん発症すると,しだいに進行することが知られており,しかも現時点ではその進行を抑制するような有効な治療は確立されていない.したがって,重症例では大動脈弁置換術を行うことになる.弁置換術を行わない場合,予後は不良であり,5年生存率は18%程度,最大でも50%を超えないとされている2,3).徐々に進行することから,重症化するのは多くは高齢になってからであり,高齢者での開心術を余儀なくされる所以である.
従来,変性ASの原因はwear and tear,要するに長年の使いすぎによる硬化変性と考えられていたが,最近では変性ASは動脈硬化の一表現ではないかとの認識がなされるようになってきた4).これはASの進行に関連するといわれる高脂血症,糖尿病,高血圧,喫煙,男性などの諸因子が冠動脈疾患危険因子と共通する部分が多いことや5~7),ASの弁膜組織に炎症,脂質蓄積,石灰化,骨化,血小板沈着,内皮機能低下など,動脈硬化巣と同様の病変が認められることによる.例えば,Pohleらは電子ビームCTで認められた大動脈弁石灰化の程度は冠動脈石灰化の程度とよく相関し,LDLコレステロール高値は,両病態の進行に関連する因子であったと報告している3).またPaltaらは,経時的に心エコードプラ法で追跡し得たAS症例170例において,血清コレステロール値が200mg/dl以下の例では年間の大動脈弁口面積減少度が0.07±0.19cm2/年であったのに対し,コレステロール値がそれ以上の例では弁口面積減少度が0.14±0.35cm2/年と約2倍の進行度を示したとしている7).さらにOttoらは,初期の変性AS弁膜の内膜下に,動脈硬化巣と同様に,脂質沈着およびマクロファージやT細胞の浸潤などの炎症性変化を認めている8).これらのことより,ASと冠動脈疾患とは動脈硬化という共通の疾患背景を有する病態であり,したがってASの進展抑制に冠動脈疾患に対する薬物療法が有効ではないかと考えられはじめてきた.
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