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はじめに
今日においても呼吸器感染症は有病率,致命率の高い疾患であり,その治療および管理は非常に重要な臨床的課題である.原因となる病原微生物を検出して適切な抗菌薬を選択することは,呼吸器感染症のみならずすべての感染症の治療にとって基本であるが,実際には,起炎菌同定に日数を要するなどの理由でempiricalに抗菌薬の投与が開始されることが少なくない.確かに広域スペクトラムを有する抗菌薬(高世代セフェム系薬,カルバペネム系薬など)を使用すれば起炎菌をはっきり同定しなくてもある程度の治療効果が期待できることは否定できない.欧米では市中肺炎に関して,治療初期での微生物学的な検索の有無にかかわらず治療効果,転帰には差を認めなかったとする報告があり1,2),これらに基づいて,2001年に改訂された米国胸部疾患学会(ATS)の市中肺炎ガイドラインでは,肺炎の起炎菌検索を行う必要はなく治療はすべてempiricalでよいとしている3).これに対して,米国感染症学会(IDSA)や日本呼吸器学会の市中肺炎のガイドラインでは起炎菌検出の努力を推奨している4,5).
古典的な検査法である塗抹鏡検,特にグラム染色の呼吸器感染症における有用性についてもまた未だ論争途上である.われわれは,広域スペクトラムを有する抗菌薬の乱用に伴う耐性菌増加の可能性が懸念され,抗菌薬の適正使用が求められるなかで,迅速に起炎菌を推定し得るグラム染色の有用性について,軽症から中等症の市中肺炎を対象に検討を行った6).
本稿では,まずその検討結果を示し,ベッドサイドで行える迅速検査として喀痰グラム染色に焦点を絞り,その検査手順,臨床応用について概説する.さらに,グラム染色をめぐる諸問題を考察し,呼吸器感染症における有用性を見直してみたい.
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