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はじめに
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の歴史は,人類と薬の歴史といっても過言ではない.ヤナギ(Salix Alba)の枝は古くから洋の東西を問わずに鎮痛剤として用いられてきたが,その有効成分として抽出されたサリチル酸(salicylic acid)には胃腸障害という重篤な副作用があった.サリチル酸の水酸基をアセチル化して酸性を弱めたアスピリンは,1898年に発売されて以来,最もポピュラーな消炎鎮痛剤の一つとして今日まで使用されている1).
NSAIDsは,1940年代にフェニルブタゾン,1950年代にフェナム酸系,1960年代にインドメタシン,1970年代にプロピオン酸系,そして1980年代にはオキシカム系などが加わり,1980年代にbenoxaprofen(OprenTM)が肝障害により回収されたものの,今では全世界で年間200億ドルを超えるまでに市場が拡大した.
基礎研究の結果,NSAIDsに共通する作用としてシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase;COX)の阻害が注目されてきたが2),1990年代に入り生理的状態でも発現しているCOX-1と病態に応じて発現が誘導されるCOX-2という2つのアイソフォームが明確に識別されるようになると3),COX-2を選択的に阻害できれば副作用が少ない解熱・消炎・鎮痛剤になるという仮説のもとに多くの製薬企業が新薬開発競争を開始した4).
選択的COX-2阻害薬は,欧米におけるrofecoxib(VioxxTM:Merck社)やcelecoxib(CelebrexTM:Pfizer社)の承認とともにNSAIDsの医薬品市場を急速に支配し,2000年には早くも40億ドルを超える市場に成長した.
2004年9月30日に米国Merck社がrefecoxibを全世界の市場から自主回収することを発表した5,6).それまでにも基礎研究あるいは初期の臨床試験においてCOX-2阻害薬が心血管系イベントを増加させるのではないかという懸念が指摘されてきたが7),プラセボを対照とした大規模臨床試験の結果,心筋梗塞の発生頻度が高いとして臨床試験の早期中止が勧告されたことは,医学専門誌のみならず新聞や一般メディアも大きく取り上げ,株価の乱高下や訴訟問題など社会的問題に発展した8).
COX-2阻害薬と心血管イベントの問題は,NSAIDsに限らず新薬全体の開発や,治験に限らず新たな診断・治療を評価する臨床研究全体に対して大きな課題を提示している.
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