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はじめに
近年,様々な疾患において,患者側の視点に立ったアウトカムとしてQOL(quality of life)を評価することが重視されている.「いかに長く生きるか」という量的な概念だけでなく,「いかに充実した人生を送るか」という質的な概念も重んじる時世を象徴し,QOLという言葉はわれわれの日常生活に浸透していき,その概念は社会通念となったといえる.
欧米では,科学的にQOLを評価する努力が早くからなされた.約20年前から本格化したアウトカム研究を背景にし,QOLは「尺度」を使って定量評価するものであるという認識のもとで多くの分析が行われ,様々な手法が完成している.
現在,多くの疾患でQOLの評価が実施されているが,COPD(chronic obstructive pulmonary disease)はそのなかの代表的な疾患の一つである.2000年のWHOの報告1)によれば,COPDの死亡者数は世界第4位で,死亡に至る疾患の上位では唯一増加を続けており,2020年には第3位になることが予測されている.一方,われわれの予後調査研究2~4)において,COPD患者の5年生存率は70~80%と高齢者の疾患としては高値で,長期に経過を示すことが明らかになっている.つまり,その死亡者数は患者数の多さから反映されるものであり,決して予後不良の疾患ではない.むしろ,気流制限の進行に伴う呼吸困難の悪化により日常生活が制限され,QOLが障害されていく慢性疾患である.QOLの評価には,慢性疾患で,なおかつ病気の進行に伴いQOLが障害されていくようなものが適しているため,COPDはそのような研究が発展しやすい疾患であったといえる.これまでに多くのQOLの測定尺度がCOPDに適用され,臨床研究や治療評価などのアウトカムとして使用されてきた.その結果,治癒や延命に加えて,患者の生活の質の向上を治療目標とし,患者の主観を数値化して評価するQOLの重要性が十分に認識され,COPDにおけるQOL評価の基本概念が確立されたといえる.COPDのガイドラインであるGOLD(global initiative for chronic obstructive lung disease)においても,「死亡率を低減すること(to reduce mortality)」と並び,「QOLを改善すること(to improve health status)」が治療管理目標に挙げられている5)ことからも明白であろう.
わが国において,QOLは根拠のない抽象的なイメージとして認識されがちである.医療現場でも,“こうすれば患者のQOLは良くなるだろう”など漠然とした印象としての域を出ず,QOLが曖昧な概念として定着しているのが実状である.
本稿では,QOLの認識を高め,今後の発展につながる様々な知見を概説したい.
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