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1はじめに
失神は全脳虚血に基づく一過性の意識障害であり,この全脳虚血の原因は様々な病態による「一過性」の低血圧である(表1).低血圧の発症には,血液,心臓,血管,脳循環中枢,末梢神経など全身循環を調節するすべての要素が関わるが,直接の病態は血管拡張,徐脈,低容量,心機能低下,不整脈,血管閉塞などである.
全脳虚血が発生する血圧のレベルは若年者で収縮期血圧40mmHg程度といわれ,意識消失に伴い筋緊張も低下するので,患者は転倒し,頭頸部を中心に受傷することがある(図1).頭頸部への受傷が多い理由は,既に意識を失っているので,受身を取ることができずに,筋緊張を失ったまま重力負荷に従って転倒するためである.このモデルを実感するには,「こけし」を倒してみるとよい.立位を保持する足底を支点として,最も大きな回転外力が頭頸部に負荷される.しかも,意識を失っているために受身を取ることができない.
失神発作の最中には,上記のように極端な低血圧のために脈を触れることはできない.また呼吸も抑制されるので,もしも失神発作が遷延すると致死的となりうる.しかし,失神の持続時間は短時間で,仰臥位であれば1~2分以内に意識を回復する.血圧低下が短時間で回復する機序は,転倒により静脈還流が増加し心拍出量が増加すること,脳循環中枢からの交感神経抑制,迷走神経亢進の指示も秒単位であること,および原因となる不整脈が一過性などのためである.脳の血流予備能は少なく,一方でエネルギー消費は高いため,血圧が低下してから失神するまでの時間は「数秒」と短い.このため,失神は文字どおり突然の発作である.ただし,血圧低下の程度が全脳虚血の閾値に達しない場合には,不快感,嘔気,眼前暗黒感などを認め,この後に失神した場合には前駆症状と呼ばれる.血圧低下の程度が失神閾値に達せずに回復することも多い.
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