Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
最近20年間に,慢性心不全のパラダイムに大きな変化が起こった.もともと慢性心不全は,急性心不全すなわち急性心機能障害による前方ならびに後方障害を伴う病態が完治せずに慢性化した病態を指し,継続する心機能障害を意味していた.しかし,1980年代後半から,慢性心不全患者の予後規定因子は心機能自体ではなく,調節系(神経,ホルモン因子)の異常がより重要と認識されるようになった.当初,交感神経系についてその重要性が報告されたが1),次第に副交感神経系,レニン-アンジオテンシン-バゾプレッシン系の重要性が認識され,薬物治療の効果の面や生命予後指標の面からもそれが実証されるようになった.さらに1990年代に入ると,慢性心不全の症状を特徴づける運動制限(易疲労性・労作時呼吸困難)についての研究が進み,運動耐容能が最も重要な予後規定因子であることが証明され,運動生理学や運動心臓病学の進歩に伴って,呼吸-循環-代謝の連関が解析されるとともに,2000年以降は慢性心不全に対する運動療法の理論的裏付けならびに方法論が確立されるに至った.
現在,慢性心不全と急性心不全は根本的に異なった病態と理解され,治療学的にも急性では心臓以外の重要臓器を守るために,心ポンプ機能改善を最優先することが許され,それに特化した治療法が行われるが,慢性心不全では心臓の負荷軽減と慢性の心機能不全によって惹起された調節系ならびに運動器の改善を主体とした治療が行われる.前者には安静臥床やβ-刺激薬,後者に対しては運動療法やβ-遮断薬が適応されることを考えるとわかりやすい.したがって,慢性心不全の重症度や予後を理解するうえでは,心機能指標より神経体液性因子や運動耐容能が重要である.特に1991年Manciniら2)が心移植適応基準に最高酸素摂取量(peak VO2)の導入を提唱して以来,呼気ガス分析を併用した心肺運動負荷試験の有用性がより高まっている.
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.