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はじめに
本態性高血圧症患者のうち夜間血圧の高いnon-dipper型はdipper型に比べて脳心血管合併症の発症が多いことが知られている1)(図1).われわれは,高齢者高血圧において夜間高血圧を有する場合に左室肥大が強い,すなわち夜間血圧の上昇が臓器障害の原因の一つとして重要であることを報告したが2),高血圧患者の左室肥大は脳心血管合併症のリスク因子であり,その退縮はリスクを減少させることが報告されている3).しかし,これらの患者において,夜間高血圧と臓器障害との関係は完全に理解されているとは言い難い.
一方,血中BNP濃度は血中ノルエピネフリン濃度とともに,慢性心不全の予後規定因子であることが知られている4).血中BNP濃度は左室拡張終期圧を反映し,心不全や冠動脈疾患など種々の心疾患や,左室肥大を伴う病態で上昇する.BNPの分泌刺激は拡張期における心筋の機械的伸展,ノルエピネフリンやエンドセリンなどであると考えられており,われわれのデータでも,夜間高血圧を有する患者の血中BNP濃度は,そうでない患者よりも有意に上昇していた.血中BNP濃度が急性冠症候群や左室肥大で上昇する機序については未だよく理解されていないが,夜間高血圧を有する患者におけるBNPの血中濃度の上昇は神経体液因子の乱れを反映している可能性がある.また,BNPは急性心不全の治療薬として用いられるhANPとほぼ同様の作用を持つことから,BNPの上昇は生体の代償機構であるという可能性も考えられる.
さらに最近,加齢による左室肥大の進行が性別によって異なることが報告され5)(図2),女性ホルモンが加齢による高血圧の進行や,左室肥大の形成に影響を与えている可能性が示唆された.また,夜間高血圧を有する患者において交感神経活性の亢進が知られており,加えて組織におけるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系賦活による酸化ストレスの亢進,局所心筋におけるミネラルコルチコイド受容体を介した心筋線維化促進作用,インスリン抵抗性なども,高血圧患者における臓器障害に関係する重要な神経体液因子であると考えられる.
本稿では,これら神経体液因子と夜間血圧,および左室肥大を含む臓器障害合併症との関係について,エビデンスと当センターのデータを交えて解説し,推定されている機序についても述べる.
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