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はじめに
選択的血管撮影(Selective angiography)は目的とする臓器に分布する大動脈分枝にあらかじめ熱処理により先端を彎曲せしめたcatheterを挿入し,その血管分枝を造影する方法であり,1953年,Seldingerが経皮的に行なう方法を発表して以来,広く行われるようになった.
血管は体内にくまなく分布するので,その性状を詳細に観察することで腫瘤の存在を知るばかりか,悪性腫瘍にあっては腫瘍血管としての異常性の存在がその病態把握を容易にする.したがって肝,腎,膵などの実質臓器には欠くことのできない検査法の一つであるが,管腔臓器である胃や大腸の悪性腫瘍に対してもその腫瘍の占拠部位,浸潤範囲を比較的容易に知り得るのみか,隣接臓器との関係や転移巣なども明確に理解することができる.
一方,悪性腫瘍のみならず,炎症性疾患にあってもその血管の特異性などから病巣部位は勿論,質的診断まで可能となり,鑑別診断にも有効である.良性腫瘍の場合でもある程度その大きさがますと支配血管に偏位,伸展などの間接所見の他に病巣部に血管増生などの直接的変化も示されることになる.
これらの撮影は普通film changerにより連続撮影されるので,その異常な血行動態を知ることが可能となる.したがって消化管の出血巣の確認や血管自体の病変の把握なども容易である.さらに大動脈の第2次,第3次分枝への超選択的血管撮影(Superselective angiography)や直接拡大撮影(Magnification angiography),薬理学的血管撮影(Pharmaco angiography),立体血管撮影(Steero-angiography)などの技術の開発,応用がその診断領域を飛躍的に発展せしめた.
一方,血管撮影は診断のみならず挿入されたcatheterを介して比較的限局された病巣部に高濃度の制癌剤や副腎皮質ホルモンなどの薬剤の注入によって治療効果をあげることもできる.これら血管撮影のmeritを大腸に限定して解説してゆくのがこの論文の目的である.
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