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Ⅰ.はじめに
従来から十二指腸潰瘍は幽門輪に近いほど頻度が高く,ほとんどすべてが十二指腸球部に発生するものと考えられ,ことに臨床上では球部に発生する潰瘍にだけ注意が払われていた.しかし最近では臨床的にも球部以外の十二指腸に潰瘍が発見され,これが治療の対象となる場合が経験されるようになった.このような潰瘍は十二指腸の球部から肛門側に発生するので,十二指腸球後部潰瘍(postpulbar duodenal ulcer,postbulbäres ulcus duodeni)と呼ばれている.
十二指腸球後部潰瘍は決して新しい問題ではなく,消化性潰瘍の剖検例や手術例の報告,ことに潰瘍の発生部位の検討に際して,その存在は以前から指摘されていたものであり,1866年のHeckford1)の報告にまでさかのぼることができる.しかし臨床上に球後部潰瘍が一般に注目されるようになったのは,欧米でも比較的最近のことである.その主な理由は球後部潰瘍が球部潰瘍に比較して,合併症,ことに顕出血を起しやすく,潰瘍症状が非定型的になりやすく,特異のレ線像を呈し,しかも以前に考えられていたほどまれなものではなく,注意すれば発見が比較的容易であることなどが判明したためである.この意味で,その存在意義を臨床的に明らかにした米国のAlvarezら(1947)2),Ballら(1948)3)の文献は特筆に値すると考えられる.米国では1961年までに400例以上の報告があるといわれている4)5).
これに対して,わが国では十二指腸球後部潰瘍についての臨床報告はほとんどみられないが,われわれの内科では昭和34年に4例を報告している6).われわれはその後も球後部潰瘍について注意を払っているが,症例も増加したので,経験例を中心にして2,3の検討を加えることにする.
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