Japanese
English
今月の主題 悪性サイクル
巻頭言
悪性サイクルという言葉のいきさつ
Foreword: The Circumstances of the Word ‘Malignant Cycle’
村上 忠重
Tadashige Murakami
pp.572-573
発行日 1972年5月25日
Published Date 1972/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403109100
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私が悪性サイクルとか聖域とかという言葉を提唱したのは,たしか昭和41年広島における病理学会であったと記憶する.この考えは後に述べるようないきさつで,ある日突然思いついた.
私は研究のテーマに胃の組織学的研究をしろと命ぜられたが,目標を癌においてよいのか潰瘍においてよいのか一向に定まらなかった.病理学教室の,当時の平福助教授に指導を受けたが,どうも胃潰瘍の方がむつかしく思えた.その理由は,潰瘍は治ったり,悪くなったりする.一つの組織標本を見ても,それが進行性のものか,治癒に傾いているものなのかがなかなか分らない.ところが癌の方は決して治らないだろうと考えられていたために,とに角進行しつつある像と解釈すれば間違いがない.もっとはっきり言えば,大きい癌は小さい癌から進展したものと考えればよいわけで,逆にその発生像をつきつめるにも癌の方が容易であると感じられた.そこで途中で仕事の目標を胃癌の組織発生においた.胃の切除標本の番号が約500例に達したころにどうやら博士論文ができ上った.
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