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本書は,西ドイツのErlagen-Nurnberg大学のJ. W. Rohen教授と神奈川歯科大学の横地教授の共著になるものである.Maryland大学のE. C. B. Hall-Craggs教授の協力を得た英文版のColor Atlas of Anatomy; A Photographic Study of the Human Bodyの日本語版に当たる.この図譜の特色は,その序にあるように,主に模式図あるいは半模式図で示されている従来の図譜で表現できない三次元的立体像を求めて,実際の解剖標本の写真を用いたことにある.これにより,真実をより正確に伝えることができる,という.本書は,系統解剖学的にではなく局所解剖学的に,しかも肉眼解剖実習の場合のように表層から深層へと解剖図が展開していっている.更に,神経,脈管の分布,筋の走行と機能を示す模式図を加えて,局所的な解剖図に拡がりと関係とを持たせ,纒まりのある理解を助けている.この実際の解剖標本による写真アトラスが,今日の解剖遺体の不足に悩む医学教育を補うことができることを願っている.
本書は,Ⅰ.総論のあと,Ⅱ.頭部,Ⅲ.頸部,Ⅳ.体幹,Ⅴ.上肢,Ⅵ.胸部内臓,Ⅶ.腹部内臓,Ⅷ.泌尿生殖器官およびⅨ.下肢の順に局所解剖学的に編纂されている.Ⅰ.総論では,まず模式図による人体の構成と内臓の位置の説明に続いて,成人と小児の全身骨格,骨化,骨の構造の写真があり,関節の形態学的種類が模型と実物標本を対比させて説明される.筋,神経系と脈管についても同様に標本と模式図を適宜配置して,やや詳しい説明文で記述され,導入部の役を果たしている.局所解剖学的に編纂されたとされるⅡ章以下は,説明文を省きながら,細かい工夫がなされている.例えば,Ⅸ.下肢は,解剖標本による骨,靱帯と関節,筋の系統解剖学がまず図示される.更に模式図を加えた血管,腰神経叢の総論的説明がある.続いて,いわゆる解剖学実習の手順による大腿前面,殿部,大体後面,膝部,下腿,足の局所解剖学的図が展開するように,各章とも系統解剖学的な把握を忘れていない.本書が目的としている医,歯科学生の解剖学実習の際への配慮,人体の構造を部分のみならず全体として理解するためと考えられる,著者の良識である.そのほか,どの部分をとっても図1つ1つの美しさと,細かい配慮に感嘆させられる.例えば中枢神経系の各図は色付けされた標本写真を含めて,これまでの脳のアトラスを凌ぐ説得力を見せている.
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