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書評「食道表在癌 画像診断と病理」
川井 啓市
1
1京都府立医科大学公衆衛生
pp.142
発行日 1994年2月25日
Published Date 1994/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403105681
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日本の研究者にとっては胃癌と異なり食道癌は,その有病率・死亡率のいずれをみても不利な診断学の対象である.最も有利であった胃癌の診断と比較して格段の苦労だったと思われるし,その意味で日本でこのような書が胃癌の診断に対する伝統的手法を駆使しながら診断学の領域にまで拡げ,かつ出版されたことに敬意を表するものである.本当に1例1例を診断委員会で大切に扱って症例数の少なさを,共通の診断学をもって補おうとしていることが如実に表現されている.そのため内視鏡やX線所見の分析から組織学的所見へと,その診断のプロセスは実に楽しい捕物的なおもしろさを展開しているのである.
臨床の診断学は,このように本来症例の1例研究の蓄積から出発するもので,血清学的,機能的な異常の乏しい食道癌では,形態的画像診断が中心となって展開し,型別に分類されてゆく.ここで大切なことは,妥当な診断学の応用があって初めて型別分類がなされ,症例は記憶の棚に整理されてゆくことである.本書では,このような症例の蓄積に同好の士が10年もかけており,新しい知見は更に加えられ,記憶の抽き出しに照らし合わされて診断されると共に,次なる問題である深達度の診断や予後が推定されてゆくのである.このような分類は,将来世界の各国に応用されるべきものであり,そのためには,類型化はできるだけ単純なほど普遍性をもってこよう.
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