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ヘリコバクター・ピロリに興味のある方には,何をおいてもお勧めしたい本の1つである.1982年4月14日,西オーストラリアのパース市の研究室で,これまで細菌が生息できないと言われていた胃粘膜から初めてらせん状の細菌が培養された.培養に成功した若い医師の名前は,当時無名で今は誰もが知っているMarshallである.どのサクセスストーリーにも偶然性がつきものであるが,彼の場合にも,オーストラリアの復活祭休暇が5日間あったという幸運が存在した.ヘリコバクター・ピロリは通常の細菌の培養のように2~3日ではコロニーを形成しない.48日間培養による34回目の失敗後,35回目の培養がちょうど復活祭をはさんで行われたことが,彼を幸運児に導いたのである.しかし,最も重要なことは,彼の発見が偶然のみで行われたのではないことである.彼の共同研究者であったGoodwinが本書の中で述べているように,それは計画された偶然であった.Marshallが研修していたRoyal Perth病院では,ヘリコバクター・ピロリ発見の基盤となる胃の細菌についての病理学者,細菌学者の連携が既にできあがっており,Marshallらはそれをベースに彼の伝説を証明することができたのである.本書の第1章で述べられているこのような迫力のあるヘリコバクター・ピロリ発見のストーリーを読むだけでも本書を購入する価値が十分あると言える.
本書は,過去10年間のヘリコバクター・ピロリ研究の集大成の書であり,世界の一流の研究者たちがチームワークよく実にわかりやすく,最新の研究成果について解説を加えている.内容は,Goodwinによる序説に始まって,疫学,病態生理学,消化性潰瘍における役割,胃癌における役割,診断,治療,結論の各章に分けて記載されている.どの章も独立して記載されているので,興味のある章から読み進めていくことが可能である.例えば,ChenとLeeによって記述された“ワクチンの可能性とその見込み”の章は,これまでわが国の研究者によって報告されたことのない分野であり,この章を読むことによってヘリコバクター・ピロリの感染自体が生体の免疫機構から説明しにくい特殊なものであることが理解でき,それでもなおワクチンへの研究の試みが行われ少しずつ進歩がみられることに驚きを感じると共に,科学のすばらしさを再認識させられるに違いない.
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