--------------------
書評「胃 形態とその機能 第2版」
和田 武雄
1,2
1元札幌医科大学
2国立がんセンター
pp.148
発行日 1995年2月25日
Published Date 1995/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403105309
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
久しぶりに川井啓市教授の謦咳に接する思いを深めながら,その編集に成る「胃 形態とその機能」(医学書院)の改訂第2版を,二日二晩かけて通読した.
編者としての言葉にもあるが,これは改訂第2版というよりは,内容を一新した点で今日の“胃学”の新生面を集約した新刊書である.初版以後20年間の医学の各分野の発展を織り込んだ構成は,全く新しい.書評を承わった筆者も30年前に,組織形態と機能との関わりに焦点をおいて,消化管の生理・生化学と病態変化の一書をまとめかけたことがある.意図が腰砕けに終わった理由は,組み立てた構想と研究知見個々との間に整合性が得られなかったことが第一だった.このころ,間もなく川井教授は増田正典教授の下から公衆衛生学を担当して独立されたが,意表をつく人事を,親しかった増田教授と話し合ったことを忘れない.“今に内科学の先を行く公衆衛生学の時代が来るよ”,これが彼の頑とした意見だった.疾患を無症候の時期に捉える時代,四半世紀も前にそれを先取りしていた畏友を,本書をひもときながら思い出した.そのころの川井教授について忘れられないもう1つは,病理学の藤田哲也教授の協力下に進められた,胃粘膜細胞の動態についての研究である.一方に地域医療を口にしながら,川井教授の言うマクロレベルの形態をミクロレベルに追究する学問的深化がうかがえた.そして本書の初版が上梓をみた.学問の地平を変えたことがライフワークの方向性を確と定める契機になった.筆者はそのようなことを考えていた.
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.