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最近,巷に緩和医療と題する書物は枚挙にいとまがない.筆者も主治医として癌末期の患者さんを担当することも少なくないため,必要に迫られて緩和医療の教科書をひもとくこともあり,今回本書を手にする機会を得た.本書はgeneralistを対象としているため堅苦しい表現は少なく,仕事の合間や通勤電車の中で気楽に読み進めることができた.分量もA5判で200頁程度で手ごろであったこともあり3日で読了することができた.確かにサイズとしては小振りな単行本であるが,その内容は極めて実際的で充実していた.各章の導入部のチェックリストやイラストもわかりやすく好感が持てた.教訓的な症例の提示も交えた構成で読みやすく,意図するポイントが直にベッドサイドから伝わってくる内容であった.これは,「総合診療ブックス」のシリーズ全体を通して感じることだが,編集者の苦心の跡がうかがえる.また,何よりも各論文が緩和ケアの専門家でなくても理解しやすいよう配慮して書かれており,執筆された先生方の熱意を感じる力作揃いであった.章立てもとう痛緩和などの症状コントロールのみならず,実地診療でしばしば問題となる“褥瘡”や“口腔ケア”など類書ではあまり取り上げていない内容にも頁を割いている点も嬉しく感じた.また,後半の“抑うつ”,“家族と癌”,“予後予測”,“癌告知の手順”は非常に参考になった.というのも,特に緩和医療を要する患者さんと接していて最も心を砕く精神的ケアに関しては,これまでの教科書の記載には何となくなじめない違和感を感じていたからだ.これは,筆者が不勉強なだけかもしれないが,従来の教科書の多くが欧米の翻訳であったり,また,海外の文献の受け売りだったりするためではないかと考える.つまり,キリスト教文化を背景とした欧米の方法を,精神的なバックグラウンドが全く異なる日本の患者さんにそのまま実践するには少し無理があったのではないかと思われる.しかし,本書には日本の医療現場の実情や日本人の生活様式・人生観などの実際に則した具体的な記載が随所に光っており,これまでの緩和医療の教科書にない新しさを感じた.
最近では告知率の上昇やインフォームドコンセントの普及に伴って,自らの意志で終末期を家で過ごすという選択をする患者さんも増えている.このことにより,地域のプライマリケア医も外来や在宅をベースとした緩和医療を実践する機会も少なくない現状がある.
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