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書評「門脈圧亢進症の病理―肝内血管系の変化を中心に」
森 亘
1
1科学技術会議
pp.1420
発行日 1996年10月25日
Published Date 1996/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403104437
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久し振りにイギリスのケンブリッジを訪ねた.雨の日であった.私にとって師匠とも言うべきR.R.A.クームス先生は,2度の手術に耐え抜いてこられたとは思えないほどの元気さで暖かく迎えてくださり,ご自身手作りの昼飯を御馳走してくださった.私の近況報告を優しいまなざしで聞いておられた先生は,やがて書棚から1冊の本を取り出してこられ,“これは,僕が持っているよりも君が持っていたほうが良い”と,短い言葉と共にサインを認めて私に下さった.今では貴重な,シュワルツマンの初版本であった.先生の,その方面における蔵書は有名であり,この本にも先生のお名前と共に,一連の通し番号が打ってあった.したがってこれは,先生の書架の中で永久欠番となることを意味している.そしてこんなことを言われた.“僕が君に伝えることができたのは,今から考えると大変古典的な事柄ばかりだった.君もその影響を受けてか,まことに古典的な仕事をしたものだね.しかし今や,いわゆる近代的の解析ばかりでは物事は解決しないことが明らかになってきたようだ.もう一度古典に戻り,その中に秘められている総合の精神を大切にしなくてはならない.このごろ僕は,機会あるごとにこんなことを説いているんだよ.”
それから2か月,梅雨のころになって医学書院から,中島敏郎先生の著書「門脈圧亢進症の病理―肝内血管系の変化を中心に」が送られてきた.拝見して,一番先に頭に浮かんだのが上に述べたクームス先生の言葉であった.正しく,形態学におけるこの1冊の中に,クームス先生が免疫学を通じて体験され,感じられた思いそのものが込められているように感じたからである.
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