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かつて消化管といえば胃が主流で,胃がんの内視鏡診断と治療,消化性潰瘍の病態生理,Helicobacter pylori感染症などが学会や一般臨床の場でも大々的に取り上げられていた。もちろんこれらのテーマは現在でも重要なものであるが,近年は下部消化管に多くの注目が集まっている。この理由として,本邦における生活習慣の欧米化などによって,IBD(炎症性腸疾患)や大腸がんなど腸疾患が増加していることや,大腸内視鏡検査が広く普及し日常臨床でも盛んに行われるようになったことなどが挙げられる。このような背景のもとに,血便や慢性下痢などを有する患者には大腸内視鏡検査が積極的に行われるようになり,必然的に感染性腸炎の内視鏡所見が集積されることにもつながった。しかし,感染性腸炎の内視鏡所見は特異的と言えるものから非特異的なものまで実に多彩で,系統的な診断学としてまとめ上げることは困難であり,なお一層の知見の集積が必要と思われていた。
そのような折に,実によいタイミングで大川清孝先生と清水誠治先生の編集による本書が出版の運びとなった。両先生はいずれも下部消化管疾患(特に炎症性腸疾患)の診断・治療においてはわが国でもトップクラスの方たちである。小生も,今まで両先生と下部消化管臨床に関する多くの研究会に参画し,共に学んできた。両先生は,いずれも腸の炎症性疾患における症例経験が非常に豊富で,臨床に真摯に取り組んでおられ,そこから得た診断能力は言うに及ばず,総合的臨床能力は他の追随を許さないものがある。しかも,学問に対する誠実さと謙虚さがあり,私は常日ごろから両先生から多くのことを学ばせていただいている。そのような両先生の思想や姿勢が本書においても貫かれており,1例1例が丁寧に取り扱われて,誠実さの伝わる編集である。
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