“One More Step”
身近な人の診察は苦手です
石田 秀明
1
1秋田大学医学部第1内科
pp.34
発行日 2000年10月30日
Published Date 2000/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402907685
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この話の発端はどうも不自然ですが,実際にあった話ですので聞いてください.登場人物は私と患者(50歳,女性)の二人.時は随分昔です.患者は病院事務の方で,ある日,エコーで体内がどう見えるのか,後学のため彼女の体を使って教えてほしいと,私のところに来ました.聞くと,ご丁寧に,朝絶食で来たとのこと.断わる理由もなく,軽い気持ちで引き受けました.ところが,検査を始めて「しまった」と思いました.胆嚢底部が著明に肥厚し胆嚢癌と思われる所見です.胆嚢頸体部は壁肥厚全くなし,胆嚢内に結石なし.腹部にほかの異常所見なし.CTやほかの検査でも同じ結果です.つまり,切除可能な胆嚢癌です.いつも顔を合わせている人にどう話を切り出そうか,とても悩みましたが,やっとの思いで説明し,手術に持ち込みました.開けてびっくり,胃前庭部から発生した平滑筋腫が胆嚢に癒着したものでした.確かに,retrospectiveにみると(便利ですね,この言葉),胆嚢底部と胆嚢体部の状態が一線で境されるように全く異なるのは,きわめて不自然ではあります.古来,ある臓器の辺縁に腫瘍を見た場合,近接臓器由来の腫瘍の可能性を忘れてはいけない,と強調されてきました.
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