iatrosの壺
身近な所に落し穴
西田 雅弘
1
1西田内科クリニック
pp.90
発行日 1996年11月30日
Published Date 1996/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402905453
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10年ほど前,海辺の国立病院に勤務していたころのことです.月曜の朝,病院に行くと看護婦さんより,「昨日Oさんが胃が痛いといってこられ,当直の先生が診察され,入院になっていますのであとお願いします」とのこと.Oさんは29歳の男性.この病院の放射線技師で,私の釣り友達でもあり,週末には20kgを超える釣りえさ,釣り道具を持ち2〜3kmは岩場を歩いて釣りに出かけていました.「どうしました?」とたずねると,「昨日家で晩酌をして寝ていたら急に胃が痛みだして,当直の先生に注射をしてもらい,今はもうかなり良くなっている」とのことでした.「潰瘍ができているかもしれないので入院のついでに胃の検査をしてみましょうか」と,一応というかたちで診察をしていくと,心尖部で心膜摩擦音が聴取されました.怪訝に思いつつ心電図をとってみると,II,III,aVFでSTの上界,異常Q波がみられ,立派な下壁梗塞の所見でした.よく話を聞いてみると,突然の発症で冷汗を伴っていたとのこと.心窩部には圧痛がないなど心筋梗塞も考慮しておく必要があるにもかかわらず,注意が胃にばかり向いて危うく大きな誤診をするところでした.初対面の患者さんの場合には,いろいろな可能性を考えつつ診るものですが,身近な人の場合には何がしかの先入観や照れがあり,しかも医療従事者の訴えとあって,注意が胃にばかり向いてしまったものと思われます.
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