内科エマージェンシー 私の経験
治らない周期性四肢麻痺
秋津 壽男
1
1秋津医院
pp.351
発行日 1998年10月30日
Published Date 1998/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402907164
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彼女は16歳の学生であった.ある朝目覚めると,首から下が全く動かない.救急車で来院後,Kは2.8mEq/dl,周期性四肢麻痺と診断し,電解質の補正を進めた.ところが,翌日には電解質が正常化したのに麻痺が一向に改善しないのだ.いろいろ検査し悩んだが,何とか立てるのみで歩行できない,最初は無口でおとなしい子であったが,慣れるにつれ少しずつコンタクトが取れるようになった.会話の中に家族をかばう「優等生発言」が多く,病気に対する不安が強い.心身症的要因が関与しているのではと気づき,治療方針を変更した.強引に立たせて,嫌がる患者を無理矢理引っ張って歩かせる.何と歩いた!ええい,このまま走ってやろう.患者と2人して病棟の廊下を走ると,何事が起こったのかと婦長が追っかけてきた.自分の病状に対するとらわれの問題であったかと胸をなで下ろし,退院とした.退院後,自分が演奏したオーボエのカセットテープとともに分厚い手紙をいただいた.中を見ると「先生の奥さんには,私の母のような辛い思いをさせないでください」とある.なるほど,合点がいった.患者の父親はやり手の新聞記者でほとんど家に居らず,女性問題も抱えているらしい.それを悩んだ娘が体の不調をもって訴えたのであろう.後日家族を呼んで娩曲に注意を促した.教科書的には鑑別診断のなかにヒステリー発作があるが,初期には明らかな電解質異常があり,その後心身症的な症状の続いた奇妙な症例であった.
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