医道そぞろ歩き—医学史の視点から・38
少年のような心をもった大化学者エールリッヒ
二宮 陸雄
1
1二宮内科
pp.1140-1141
発行日 1998年6月10日
Published Date 1998/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402906868
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化学療法と免疫学に偉大な足跡を残したエールリッヒは神童と呼ばれた秀才で,ラテン語が天才的にでき,後年折りに触れてラテン語で名句をくちずさんだという.少年のような心をもった愛すべき人であったらしい.コナン・ドイルとハバナ煙草が大好きで,新聞や雑誌の斜め読みが得意で,多くの友人に愛された.晩年のある年,2月26日のカレンダーのある大学の自室で,葉巻の灰を床にこぼしながら文献を読んでいる写真が残っている.まわりの机はどれも本や雑誌が山積みで,ソファの上には身の丈ほども雑誌が積み重ねられ,エールリッヒは残された狭い床に置かれた椅子で雑誌を読んでいる.整理整頓の不得意な筆者など,その写真を見るたびに安心する.
エールリッヒがベルリン大学内科の助手としてシャリテ病院で研究していた28歳のころ,ベルリンの生理学会でコッホが結核菌の発見を公表した.この菌の研究を始めたエールリッヒは,掃除婦が染色標本をストーブの上に置いたことから,アニリン色素と加熱による結核菌染色法を発明した.エールリッヒが大学を出たころ,ドイツではアニリン色素を主とする化学染料が市場に出はじめており,エールリッヒは早くから色素と染色法に関心を抱いていた.ついで彼は,アニリン色素の生体染色で,組織細胞の生活現象が酸化作用で行われていることも明らかにした.
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