医道そぞろ歩き—医学史の視点から・32
1800年前の臨床医アレタイオス
二宮 陸雄
1
1二宮内科
pp.2458-2459
発行日 1997年12月10日
Published Date 1997/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402904878
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「(脳卒中のとき)脊髄のように頭よりも下で病気が始まれば,同じ側に麻痺が起きる.しかし,頭がやられると,右側がやられたときは身体の左側が麻痺し,左側だと右側が麻痺する.この原因は神経の始まりの交叉のためである.」「破傷風では,一般に腱と脊柱,そして顎と頬に関係する筋肉の痛みと緊張がある.患者は下顎と上顎を固く結び,てこやくさびでも容易には開くことができない.たとえ歯をこじ開けて液体を流し込んでも,患者はそれを飲み込まず,吐き出したり,口にいれたままにしたり,鼻に逆流させてしまう.のどは強くしまっていて,扁桃腺も固く緊張し,嚥下できない.頬や唇は震え,顎も振戦し,歯はがたがた鳴る.
これらの記述は,今から1800年前に,当時ローマ帝国の東端の一地方であったカパドキアで,アレタイオスという医者が書き残したものである.ローマのガレノスと同じ頃の人で,脈拍の記述に2人は共通の用語を使い,治療内容にも一致点がみられ,解剖学の知識も似かよっている.心臓の内在熱による冷気の加熱説も共通しているし,ガレノスの「自然(生命)力」の書に出てくる「引き寄せ力」にも触れている.
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