今月の主題 輸液療法の実際
〈Editorial〉輸液療法—臨床医の本領発揮の場
齊藤 博
1
1都立駒込病院・内科
pp.924-925
発行日 1991年6月10日
Published Date 1991/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402900894
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生命の起源が海にあることは周知のことである.すなわちはじめは生物の外部環境は海であった.メクラウナギなどのように一度も陸に上がったことのない海の動物の中には今でも体液の浸透圧が海水と同じものがある.その後,生物は陸の生活,あるいは一部はまた海の生活に戻るなど進化を重ねてきた.その間細胞を取り囲む外部環境も次第に周囲の環境に即して生物が生活できるように変化してきた.このような過程の中で多くの動物の体液浸透圧は海水の約1/3でほぼ一定となっている.このように,人の体を構成する細胞の外部環境,すなわち細胞外液は海水に由来しており,その構成も海水に類似している.海水の主なイオンはNa 455mEq/l,K 9.7mEq/l,Cl535mEq/lである.この約1/3の濃度がまさに人の細胞外液のイオン濃度に近いのである.
人は血清Naあるいは血漿浸透圧を一定に保ち,細胞が正常に機能を営めるように,鋭敏で精巧な調節機能を持っている.生体が自分でこれをコントロールできない時,輸液はこの細胞の外部環境を正常に維持できるように補佐するものであり,水とNaの適切な補給がその基本にある.輸液の歴史は今から160年前にさかのぼり,コレラ患者の治療に始まったといわれる.この時の治療効果は水とNaの輸液による補給により,細胞外液を補正できたためであり,輸液の本来の目的がここに示されている気がして興味深い.
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